公表権とは
公表権とは、著作者人格権の1つで、著作物を公表するか否か、公表するとしてその時期、方法や態様を著作者が自由に決定できる権利です。著作物の中には、手紙、日記や練習のために創作した絵画・イラストのようにそもそも著作者が公表したくないと思っているものがあります。また、将来公表しようと思っているけれども、現時点では未完成でありまだ公表したくないと思っているものもあります。そうした著作者の著作物を公表することに対する「思い」を保護する権利が公表権です。その他に、公表権はビジネスの世界でも大切です。例えば、桜やクリスマスをテーマとした新しい楽曲の著作者は、それらのシーズン前に販売を開始することで売上げを伸ばそうと考えることもあるでしょうから、公表時期は大切です。また、どのように広告宣伝するかも売上げに影響するでしょうから公表の方法や態様もやはり大切です。このように、公表権は、ビジネスの世界でも重要であり、著作者の経済的利益を保護する機能も果たしているといえます。
公表権の対象は未公表著作物
公表権の対象は未発表著作物です(著作者の同意なく公表された著作物も含みます。)。したがって、既に発表されている著作物を公表しても公表権侵害にはなりません(別途著作財産権を侵害する可能性はあります。)。他方、未公表著作物が著作者の同意なく公表された場合には、著作者は公表権侵害として、公表した者に対して損害賠償を請求することができます。また、公表されそうな場合には、公表しようとしている者に対して公表の差止めを請求することができます。
このように、公表権が対象とするのは未公表著作物ですから、実際の裁判ではその著作物が未公表著作物か否かが争われることがあります。そして、ここでの「公表」とは、著作権者またはその許諾を得た者が、①著作物を発行することと(発行とは、公衆の要求を満たすことができる相当程度の部数の複製物が作成・頒布されたことをいいます。)、②著作物を公衆に提示することとされています。そして、裁判例を見ると、未公表著作物に該当するかは、著作物が頒布、提示された相手方及びその範囲(特定か不特定か、少数か多数か)、公表が予定されている著作物か、提示後の手続きや提示された著作物の範囲(著作物の一部か、主要な部分か)などで判断されています。
【未公表著作物該当性について判断した裁判例】
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裁判年月日 |
判断 |
理由 |
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東京地判昭52・2・28無体集9巻1号145頁【九州雑記事件】 |
公表 |
内部的な映写であっても、少なくとも特定且つ多数の者に提示されたであろうことが容易に推察される。 |
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福島地決平7・11・1 |
未公表 |
裁判所に提出した第一次仮処分の申請書とその疎明資料について、非公開手続である第一次仮処分の申立のために作成して使用されたもので、未だ公表されていないことが明らかである。 |
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東京地判平12・2・29判時1715号76頁【中田英寿事件】 |
公表 |
本件詩は、三〇〇名以上という多数の者の要求を満たすに足りる部数の複製物が作成されて頒布されたものといえるから、公表されたものと認められる。 |
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大阪地判平成25・6・20判例時報2218号112頁【ロケットニュース24事件】 |
公表 |
ライブストリーミング配信動画の視聴者数については、「常時400人以上であり、特に企画番組は人気で、この日は数千人の視聴者を超え」(訴状)ていたとされる。そうすると、著作者である原告自身が、本件生放送を公衆送信の方法で公衆に提示し、公表したのである。 |
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東京地判平25・11・1 |
未公表 |
サイト運営者に送付した誹謗中傷を理由とする削除要請のメールについて、その内容が公開されることはおよそ予定されていないといえるところ、本件に現れた全証拠によっても、その内容が公衆送信等の方法で公衆に提示されたと認めることはできない。 |
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東京地判平28・12・15【真理講演会事件】 |
公表 |
講演会での講演について、本件講演会は,定員86名の会場で行われ,対象者が限定されておらず,事前に申込みをすれば誰でも参加することができるものであったというのである。そうすると,本件講演は,不特定又は多数の者に対して行われたものであって,原告らの口述により公衆に提示され,公表されたと認められる。 |
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東京地判平30・12・11【ASKA事件】 |
未公表 |
感想を聞くために芸能リポーターに楽曲の録音データを提供した行為について、法にいう「公衆」とは飽くまでも不特定多数の者又は特定かつ多数の者をいう(著作権法2条5項参照)のであって,芸能リポーター個人が公衆に当たると解する余地はない。 |
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東京地判令3・4・14判時2516号98頁 |
未公表 |
①懲戒請求書を弁護士会に提出した行為について、弁護士会における非公開の懲戒手続に使用されるにすぎず、その手続の性質上、同請求書にアクセスすることができるのは、同手続に関与する同弁護士会の関係者に限られると解するのが相当であるとして、公表されていないと判断した。 ②懲戒請求書が新聞社に提供されて、記事で引用されたのは、懲戒請求書のごく一部にとどまり、引用部分が懲戒請求書の主要な部分であるということもできないことに照らすと、記事における引用によって、懲戒請求書が公表されたということはできない。 (ただし、本件では、公表権に基づく権利行使は権利濫用にあたるとした。) |
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東京地判令4・7・29判時2549号44頁【ハレンチ君主いんびな休日事件】 |
未公表 |
後述。 |
二次的著作物と公表権
二次的著作物とは、ある著作物から派生した著作物です。例えば、英語の小説を翻訳した日本語の小説、原作漫画を映像化した映画、クラシックをロック風にアレンジした楽曲などが二次的著作物にあたります。二次的著作物についても原著作者は公表権を有しています(著作権法18条1項第二文)。それは、二次的著作物には原著作者の思想・表現が含まれているので、二次的著作物についても公表権を有するとしないと、原著作物の公表権を認めた意味がないからです。したがって、原著作者の同意なく二次的著作物を公表した場合、原著作者の公表権侵害となります。
それでは、二次的著作物が公表されたことによって、原著作物が公表されたことになるのでしょうか。この点が問題となった裁判例として東京地判令和4年7月29日(「ハレンチ君主いんびな休日事件」、判時2549号44頁)があります。この事件では、ある映画の脚本がある雑誌に著作者の同意なく掲載されたのですが、その映画はその記事の掲載前に社内試写会で上映されていました。この場合、その脚本は既公表著作物になり、公表権侵害が成立するのかが問題となりました。裁判所は、「脚本の翻案物である映画が、脚本の著作者又はその許諾を得た者によって上映の方法で公衆に提示された場合には、上記脚本は、公表されたものと解するのが相当である。」という一般論を述べた上で、「本件映画は、原告らの同意の下、本件試写会で上映されたところ、本件試写会は、映倫による審査に加え、公開前に被告大藏映画の内部で内容を確認することを目的として行われた社内試写にすぎず、その参加者も、映倫審査委員のほかには、被告大蔵映画の関係者が9名、外部の者は4名にとどまり、しかも、その外部の者も、原告X1の知り合い等であったことが認められる。そうすると、本件映画は、少数かつ特定の者に対し上映されたにとどまるものといえる。」として、公表権侵害を認めました。
公表権侵害を主張することの意義
公表権が侵害された場合、同時に著作財産権も侵害されているのが通常です。たとえば、インターネットで未公表著作物を公表した場合、公表権と同時に著作権者の公衆送信権をも侵害しています。そうすると、公表権には独自の存在意義がないのではないかとも思われますが、公表権は著作者人格権ですので、損害賠償請求において精神的損害の賠償をも請求することができるという点に意義があると言えます。
